田原総一朗です。
また8月15日がやって来る。
なぜ日本は、
あの無謀な戦争へと
突き進んだのか。
多くの日本人が抱く疑問であり、
そして何度でも
考えねばならないことだろう。
そのテーマに真っ向から
向き合っている
人物がいる。
政治家であり作家である、
猪瀬直樹さんだ。
猪瀬さんとの付き合いは長い。
東京12チャンネルのディレクター時代、
信州大学全共闘議長だった猪瀬さんを、
僕が取材して以来の付き合いだ。
猪瀬さんが22歳、
僕が35歳だった。
猪瀬さんは、
1983年に、
『昭和16年夏の敗戦』
を出版している。
日米開戦前夜の1941年夏、
官庁、陸海軍、民間から、
優秀な若手を集めた
総力戦研究所で、
「日米もし戦わば」という
シミュレーションが行われた。
結果は「日本必敗」。
さまざまなデータを集め、
特に石油不足が致命的だと、
結論づけたのだ。
ところがその予測を、
東條英機陸軍相らは、
「机上の空論」とし、
「我々には大和魂がある」と
言い放ったのだ。
積み重ねられた
データではなく、
恐るべき精神論で、
日本は戦争へと突き進んだ。
その史実を知らしめた、
衝撃的なノンフィクションだ。
その猪瀬さんが、
この夏一冊の本を上梓した。
『戦争シミュレーション』。
副題は「未来戦記の精神史」。
この150年間、日米、
またドイツで大量に出版された、
「日米未来戦記」を
徹底的に検証している。
なぜ「日米未来戦記」という
ジャンルが、
戦前も今も流行るのか。
僕は猪瀬さんに問うた。
猪瀬さんは、
「一つは恐怖心だ」と答えた。
鎖国していた江戸時代から、
ペリーが来航し、
国際社会の存在に気づいた。
そして日本は、
「開国でふたを開けてみたら、
アフリカのサバンナだった。
(中略)弱肉強食の世界を
知るに至った」
日本という国は、
「戦前はある意味、
恐怖の時代を生きて来た」と
猪瀬さんは言う。
そして、日米戦争が現実となり、
戦いに敗れた戦後の日本は、
日米安保条約を結ぶ。
「日米安保条約の中にあり、
我々は恐怖の中で
生きていることを、
一瞬麻酔剤を打たれて
忘れている」と解説した。
ところが、トランプ大統領が、
アメリカ第一主義を掲げ、
「これは危ないのではないかと
目が覚めて来た」。
それが今回の参院選で、
参政党が躍進した
背景にあると言う。
猪瀬さんは、
参政党が掲げる
「日本人ファースト」を、
「基本的に、根性があれば
大丈夫という精神論」として、
「ちょっとおかしくなってきている」と
危機感をあらわにした。
僕も今の状況は、
非常に危ないと思っている。
また、少子化社会において、
移民問題は避けて通れないのに、
きちんと議論がされていない。
だから漠然とした不安につながり、
「中国人が日本の土地を
買っていいのか」
という感情論になる。
これは1910年代、
アメリカで「排日土地法」
「排日移民法」が通った
プロセスと非常に似ているのだ。
猪瀬さんが、
戦後80年となるこの夏、
『戦争シミュレーション』を
世に出したのは、
並々ならぬ危機感が
あったからだ。
「大事なのは、
日本人ファーストと
言っている時に、
冷静な議論になるような
方向に持っていくこと」
だと猪瀬さんは言う。
1941年夏、
当時の若き精鋭たちがしたように、
粛々とデータを集め
感情を排した議論を
することが必要なのだ。
8月16、17日、
「NHKスペシャル」(NHK総合)で
『昭和16年夏の敗戦』を
原案にしたドラマが放送される。
ぜひ一人でも多くの日本人に、
見てもらいたい。
そして、精神論の恐怖を
感じてほしい。
84年前、
緻密なシミュレーションが無視され、
一国の命運を賭けた選択が、
「大和魂」の一言で決まったのである。
そして、多くの無辜の命が
奪われたことを
僕たちは忘れてはならない。