天皇陛下の「生前退位」報道、僕はこう考える

天皇陛下が「生前退位」の意向――。7月13日夜7時、NHKがニュースで報じた。メディアは大騒動になった。

天皇陛下は、現在82歳である。そのお年にもかかわらず、多くの公務をこなされている。だからではないが、今のうちに皇太子さまに引き継ぎたいというお気持ちなのだろう。

天皇陛下は、戦後60周年にサイパン、70周年にはパラオへの慰霊の旅をされた。ご自身のなかで一区切りついた、という思いもあるのかもしれない。

これがいち企業の経営者だったら、何の問題もない。だが、天皇陛下はそうはいかない。退位に関する規定が「皇室典範」にないのだ。だから騒動になった。「皇室典範」では、「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」(第4条。皇嗣〈こうし〉=皇位継承者の第一順位にある者)と定めてあるだけなのだ。天皇陛下の生前退位を実現するためには、国会で「皇室典範」改正の議論が必要になる。

翌14日、宮内庁の風岡典之長官は「生前退位の意向」報道を否定した。 もし、天皇陛下が生前退位を望んでいるとすれば、「皇室典範」改正を望むことにつながる。「政治に関与した」と言われかねない。だから、宮内庁は否定せざるを得なかったのだろう。

ところが、同じ日の「毎日新聞」朝刊は、次のような報道をしていた。天皇の意向を受けた宮内庁の幹部たちが、生前退位について今年5月以降、水面下で検討を進めていた、と。 この「幹部」には、もちろん風岡長官も入っている。風岡長官は報道を否定しながらも、水面下では調整を重ねていた、ということになる。

政府は、天皇陛下の意に沿うべく、なるべく早く国会審議を始めるべきだ、と僕は思っている。ただ、ひとつ、気にかかることもある。自民党をはじめとする右派は、生前退位を認める動きに反対しているのだ。かつての戦前の日本であったように、天皇の意見や姿勢が合わないという理由で、時の権力者が天皇に譲位を強要する危険性があるというのが理由のようだ。そもそも彼らは、現在の日本国憲法が定めた「天皇制」に反対で、天皇の位置づけを変えていこうと考えているのだ。

自民党が野党時代の2012年に発表した「日本国憲法改正草案」に、その思惑がうかがえる。現在の日本国憲法第7条では、「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ」とある。 一方、自民党の改正草案第7条には、「内閣の助言と承認により」という部分が、すっぽり削られていて、「天皇は、国民のために、次に掲げる国事に関する行為を行う」とあるだけだ。

自民党の憲法改正草案は、天皇の政治的機能を高めようとしている。つまり、権力を強化しようとしていると言っていいだろう。このように考える人たちが、陛下の生前退位のご意思を否定しているわけだ。

だがしかし、天皇陛下がご高齢であることや健康状態を考えると、生前退位もやむを得ない。現在の象徴制のまま、「皇室典範」に条件をつけて生前退位を認めれば、何も問題はないのではないか。

元号について問題があるという声もある。それなら、大正時代の「摂政」のような役職を設ければいい。日本国憲法の理念を変えずに対応できる話だ、と僕は思う。

天皇陛下は、8月中にお気持ちを自ら公表されるという。一部の人々の思惑ではなく、天皇陛下のご意向が尊重されることをただ願う。

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永六輔さん、大橋巨泉さん逝去で僕が考えたこと

永六輔さん、そして大橋巨泉さんが亡くなった。昭和のラジオ、テレビ界で活躍されたおふたりが、相次いで世を去った。同年代の僕としては、たいへん感慨深い。彼らと僕には、考え方において細かい違いはあった。だが、共通点もあった。それは、「戦争を知る世代」として、平和は必ず守らねばならないという思いを貫いてきたことだ。

永さんは、憲法9条を守るべき、という信念を最後まで強くお持ちだった。一方、大橋さんは当時、民主党幹事長だった菅直人さんに依頼され、参議院選挙に出馬。「小泉フィーバー」で自民党が圧勝するなか、見事に当選した。しかし、大橋さんは、アメリカ同時多発テロの際の国会決議で、「アメリカを支持する」という一文を理由に、党で唯一反対に回った。自衛隊のインド洋派遣についても、事後承認に異議を唱え、結果的に議員を辞任することになる。おふたりとも、「絶対に戦争はダメだ」、その思いを貫いた信念の人だった。

先日、僕は黒柳徹子さんと、『トットちゃんとソウくんの戦争』という本を出した。終戦のとき、黒柳さんは12歳、僕は11歳だった。黒柳さんは父上が出征していた。そして終戦後、シベリアに抑留された。父上が帰国されたのは1949年のことだ。

帰国後の黒柳さんの父上は、以前と変わらずやさしかった。が、シベリアについては口をつぐんでいたという。シベリアでのつらい体験を、子どもたちには聞かせたくなかったのだろう。「もし父がシベリアの地で死んでしまったら、(中略)私は父を死に追いやった誰かを憎みながら、その後の人生を生きることになっただろう」と、黒柳さんは書かれている。

僕の従兄弟は、海軍兵学校に通っていた。彼の立ち居振る舞いと白い制服に、僕は憧れた。当時、少年だった僕の夢は、海軍兵学校に入り、「名誉の戦死」を遂げることだった。見事な軍国少年だったのだ。

そして、11歳で終戦を迎えた。玉音放送があった日のことを、よく憶えている。自分の夢が破れたことが悔しく、泣いて泣いて泣き疲れて眠ってしまった。しかし、夜になって目を覚ますと、街が明るい。前夜まで、空襲に備えて灯火管制が敷かれていた。それももう必要なくなったのだ。複雑な思いを残しながらも、不思議な解放感が僕の心を照らしたのだ。

黒柳さんも僕も、あの戦争を肌身をもって体験している。ともにテレビという世界で生きていながら、立ち位置はだいぶ違うけれど、「平和を守る信念」と「テレビのもつ力」を信じているという点では、共通していると思う。

黒柳さんは、子どもの頃、スルメの足をもらえるというので、出征する兵士を旗を振って見送ったそうだ。そのことに、今でも罪悪感を持っているという。

また、俳優の芦田伸介さんがおっしゃった、「無力の罪」という言葉を、黒柳さんは深く記憶しているともいう。「戦争に向かう巨大な力の前では、私たちは無力だったかもしれないが、だからどうすることもできなかったではすまされない」と。

黒柳さんはその信念のもと、ユニセフ親善大使として、世界各国を、紛争地域もものともせず飛び回っている。大変なバイタリティだ。

僕も安穏としてはいられない。これからも生涯一ジャーナリストとして、日本が戦争ができる国にならないよう、しっかりと発言していくつもりだ。戦争を知っている世代が、どんどん少なくなっている。残された僕らにできることを、やり続けたい。

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都知事選をただの「人気投票」で終わらせるな! 3候補は抱負を語れ!!

今回の東京都知事選挙は、争点のない選挙になっている。主力候補といわれている増田寛也さん、小池百合子さん、鳥越俊太郎さん、いずれも都政に対する抱負なるものが見られない。都民はいったい何を基準に新しい都知事を選べばいいのだろうか。

宇都宮健児さんは、これまで3度、都知事選に出馬している。都政について、もっとも明確な抱負を持っているといえよう。前回の選挙では次点だった。だが、その宇都宮さんは、鳥越さんが野党統一候補となったことで、出馬を取りやめてしまった。

東京都知事選挙は、知名度を競う戦いになってしまうことが多い。古くは美濃部亮吉さんや青島幸男さん、石原慎太郎さん、猪瀬直樹さん、そして舛添要一さんなどだ。

1967年から3期12年都知事を務めた美濃部さんは、社会党と共産党の推薦で出馬した。戦前、東京帝大の政治学者として名を馳せた美濃部達吉の長男として、そしてご自身もマルクス経済学者として有名だった人だ。彼のスローガンは「ストップ・ザ・サトウ」。当時、自民党の佐藤栄作さんが首相在任3年目、日本政治は自民党の「一強多弱」だったといっていい。美濃部さんが「ストップ・ザ・サトウ」を掲げたのは、そうした政治背景があったからだ。だが、これはよく考えると国政に対して、都知事が「ノー」というのだから、筋違いである。しかし美濃部さんは当選した。

青島さんは、マルチタレントだった。テレビ番組の司会をして、映画の監督も主演もして、作詞作曲もして、そして直木賞も受賞した。タレント議員のパイオニア的存在でだった。そんな彼のスローガンは「都市博をつぶせ」だ。都市博とは「世界都市博覧会」のことで、選挙の翌年、1996年に東京のお台場で開催される予定だった。もちろん、すでに段取りは進んでいた。それにもかかわらず「つぶせ」といったのだ。そして、実際に青島さんは都市博を取りやめた。だが、それ以外に業績らしきものはない。

青島さんが知事になって数カ月後、僕は彼にインタビューをする機会を持った。「都市博の取りやめ以外に、いったい何をしたいのか」と率直に問うた。すると青島さんは、「自分は1位に限りなく近い2位になりたかったのだ」と答えたのだ。つまり、知事になるつもりはなかったということだ。抱負がないのは当たり前だった。

彼らに対して、猪瀬さん、舛添さんは、ともに強烈な抱負を持っていたと思う。僕が彼らにインタビューをしたときも、都政について熱っぽく語っていた。しかし二人とも、都政とは直接、関係のない問題で、辞めていった。とても残念なことだ。

今回、都知事選に出馬を決めた増田さんは、地方創生、地方の活性化を主張してきた人だ。東京から地方へ人を移そうといってきた人が、都知事選に出馬するというのも皮肉なことだ。

小池さんが当選すれば、初の女性都知事の誕生となる。その意義は十分にあると僕は思う。しかし、彼女が訴えているのは、「冒頭での都議会解散」だ。個人対組織、つまり「対自民党」、そして「対都議会」という戦いを全面に出すことは、都政への抱負とは違う。

最後に出馬を決めた鳥越さんは、参議院選で自公、そして憲法改正を是とするおおさか維新の会などが、合わせて3分の2を超えたことに、「危機感を持って出馬を決めた」という。それは、国政に危機感を持って、都政に打って出ようということだ。さしずめ「ストップ・ザ・アベ」、一強多弱への危機感であり、かつての美濃部さんに似ている。

鳥越さんの出馬で、都知事選はおもしろくなった。だが、3人とも都政への抱負がないという点で、変わりない。もっとも、あの美濃部さんも、都知事となってから、歩道橋を増やしたり、後楽園競輪場を始めとする都営ギャンブルを廃止したりという実績を残した。

選挙戦は、これからまだまだ続く。この3人を始めとした候補者たちには、東京についての抱負を熱く語ってほしい。都知事選をただの「人気投票」にしてはならない。

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参院選の勝利で改憲できる議席数を確保、安倍政権と日本会議の駆け引きが始まる

参議院議員選挙の結果が出た。与党の自民党と公明党の勝利だった。民進党を中心とした野党の作戦は実らなかった。争点づくりに失敗したのだろう。

消費税率引き上げの再延について、安倍首相は、国民に信を問うと公言していた。ところが、民進党代表の岡田克也さんは、この先延ばしに賛成してしまった。もうひとつ、自民党が隠しに隠していた憲法改正だ。そもそも民進党は護憲政党ではない。実は、所属議員のほとんどが改憲賛成で、特に9条については改正を考えているのだ。しかし、共産党と共闘するため、「安倍政権下では改正反対」と、あいまいにしてしまった。明確な争点づくりに完全に失敗してしまったわけだ。

今回の選挙で、自民党、公明党、さらに改憲に前向きなおおさか維新の会などを加えた改憲勢力は、衆参両院それぞれで3分の2を超えた。では、今後はどうなるか。

まずは憲法の改正だ。安倍首相は憲法9条や98条の改正ではなく、公明党が賛成しやすい環境権などを持ち出すだろう。結果的に民進党も賛成しやすい形にして、ともかく「憲法改正」を実現するのではないか。憲法改正は、自民党の立党以来の綱領に明記されながら、60年以上タブーであった。その憲法改正を何とか実現したいのだ。

一方、「日本会議」という団体が注目を浴びている。安倍内閣のほとんどの閣僚が参加しており、自民党の強力な支持母体でもある。日本会議が目指すのは、ひとつめは「緊急事態法の制定」、2つめが「家族制度の復権」、3つめが「憲法9条の改正」である。さらに、日本会議は明らかにしていないが、本来の目的は、「明治憲法の復元」、そして「東京裁判の否定」だ。

安倍首相は、まずは憲法第9条を避けて、なんとか憲法改正を実現しようとするだろう。改憲へ踏み出せる議席数が確保された今、日本会議は安倍首相をこの本音にどう引き込むのか。水面下の苛烈な駆け引きが行われるだろう。

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2045年、人工知能が人間の仕事の99%を奪う!?そのとき人間はどうなる?

「シンギュラリティ」という言葉をご存じだろうか。「人工知能が人間の知能を超える」という意味だ。2045年には、その日が来ると予測されている。そして、そのときには人間の仕事の99%が、人工知能に奪われるという。人工知能は、先日、ここで書いたiPS細胞とともに、僕がいま、もっとも興味を持つことだ。

いま、人工知能は「第三のブーム」といわれている。キーワードは「ディープ・ラーニング」だ。ディープ・ラーニングとは、簡単にいえば、人工知能が自ら学習を重ねて、高度に成長していくことだ。人工知能の囲碁ソフトが、今年の3月に韓国のプロ棋士を破ったことは記憶に新しい。これはディープ・ラーニングを駆使したからだ。

人工知能が人間の脳を超え、僕たちの仕事を奪っていくなどということが、近い将来、起きるかもしれない。科学技術は、人を幸せにするために進歩するものだ。それが、僕たちを困らせたり不幸にするのでは、本末転倒ではないか。

iPS細胞の技術が進歩し、人工知能が進化したら、「人間」がこの世界に存在することの意味すらも変わってしまうのだろうか。再生医療がこのまま発達していけば、人間は死ななくなるかもしれない。人工的な「脳」が進化を遂げた結果、人は仕事を奪われ、さらに、人の存在も必要なくなるかもしれない。もし、そうなったら、本当に恐ろしい時代が来ると僕は危惧している。

先日、世界初の人工知能型教材Qubena(キュビナ)を開発した株式会社COMPASSのCEOである、神野元基さんを取材した。「人工知能」が、生徒に問題の解き方を教えてくれるというのだ。しかも、解き方を間違えたら、どこをどう間違えたかまで教えてくれる。

これでは、もう教師が要らなくなる、まさしく人間の仕事が奪われるのではないかと、神野さんに疑問をぶつけた。すると神野さんは、「問題の解き方そのものではなく、人間の生き方や、もっと大事なことを生徒に教える時間ができるはずだ」と答えたのだ。

なるほど、かつてさまざまな機械が開発され、単純労働を中心に、一定の割合の仕事が奪われていった。しかし代わりに僕たちは、サービス業をはじめ、さまざまな産業を生み出し、雇用も創出してきたのだ。

人工知能ができる仕事は、単純労働を超えた。いま僕たちが担っている一定の仕事を、人工知能は「奪う」かもしれない。それは介護であったり、経理であったり、営業であったり、さまざまな分野にわたるだろう。しかし神野さんがいうように、それでも、ほかにすべきことはたくさんある。人間は、新たな仕事を生み出していくはずだ。

人工知能とiPS細胞について、これからも僕はどんどん取材していく。80歳を過ぎた僕だが、人間の未来はいったいどうなるのか、好奇心は尽きない。

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